発声法を考えずに自分の心の思うままに言葉を喋り、演じきれればどれだけ素晴らしいだろう・・・!!
しかしそのためには正しい発声法が必要なのです。
ベルカント唱法という言葉を聞いた事がありますか?
1700年代後半から1800年代にかけてイタリアにおいてロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティ、の3人の作曲家が活躍していた時代があり、この3人を中心にベルカントオペラが確立していきました。
ベルカントとはイタリア語で「BEL(美しい)・CANTO(歌)」〜美しい歌〜を意味し、ベルカントオペラを歌うために生み出された発声法がベルカント唱法と呼ばれています。この方法は現在においてもとても重要な発声法として世界中で用いられています。
この時代のオペラは人を殺したりするようなドロドロした内容ではなく、例えば「愛の妙薬」のように、ワインを“惚れ薬”だと思い込ませ展開していくような他愛もない内容が多いのですが、音楽においてはメロディーに力強さがあり、超高音を歌うなど技術的にも非常に高いものを要求される時代でした。
当時の歌手たちはアジリタ(細かい音列を速やかに歌う)や難しいカデンツァ(楽曲の装飾的、技巧的なフレーズ)をいとも簡単に歌えるようにテクニックを付けていったのです。
ベッリーニとドニゼッティはライバル意識が強く、オペラの初演の日を同じ日にし、近くの町の劇場で公演初日をぶつけ合い、どちらの方が評価が高いか、またどちらがお客様のブラボーが多かったか?(サクラを入れたという話もしばしば・・・)競い合ったという話を耳にします。作曲家のお抱え歌手達も大変だったでしょうねぇ・・・。
このベルカント・オペラ時代に作曲家の要求に対し、歌手達が切磋琢磨し、素晴らしい歌唱テクニックを作り出した!一言で言えば「難しいメロディーをいとも簡単に歌っているかのように聞かせる」、涙ぐましい努力の賜物なのです・・・。
これがまさに現代まで大切にされているベルカント唱法なのです。
時は流れ19世紀になるとヨーロッパで産業革命が起こり、それによって生まれたブルジョワ層がそれまでの貴族文化と違い、仕事での1日の疲れを癒す意味での豪華絢爛なグランドオペラを生み出しました。
歌手たちはそれまでのベルカント唱法を元に劇的な声の音色を求められるようになっていきます。
例えば「トスカ」や「蝶々夫人」や「カルメン」のように泣き叫ぶような場面が多く出てき、歌手が本当に泣き叫んだりしたら1日で歌手生命が絶たれるような、ある意味、難しい時代になってきたのだと思います。
この時代のオペラを歌う時もベルカントの基本に基づいて歌う事が一番大事なことであると私は考えます。
私達が持っている声は天から授かった世界でただ1つのものであり、いちばん大切にしなければならないものなのです。